2008年08月22日

引出しのない映画・テレビ論

山崎浩治

この夏の収穫は『コード・ブルー』

 それにしても若過ぎやしないか。『コード・ブルー』の若手医師演じる面々のことである。山P二三歳、新垣結衣二〇歳、戸田恵梨香一九歳。山Pとガッキーが『ドラゴン桜』で受験生だったのが三年前、戸田は『ギャルサー』で女子高生を演じて、まだ二年しか経っていない。医学生ならともかく、医師はないだろう医師は。僕のドラマ的体内時計が激しく違和感を覚える。ジャニーズならせめて嵐世代、女優なら真木よう子あたりをキャスティングすべきではないのか――。
 と、当初はかなり批判的に見ていたのだが、回を重ねるごとに違和感が消えていった。複数の視点でストーリーを積み重ねる『ER』風の脚本(『医龍』の林宏司)とテンポのよい演出の功績が大だろう。患者を病名でしか呼ばなかった傲慢な若手医師たちがいつしか患者の名前で呼び始め、成長を見せるエピソードは医療映画の佳品『パッチ・アダムス』を巧みに引用。一見、自己チューな山Pがアルツハイマーの祖母に感情を迸らせるのが中盤の第六話で、早々とイイ人にさせない展開にも好感が持てた。
――同じ医療ドラマ『Tomorrow〜陽はまたのぼる〜』で、「医療は金」と公言して憚らない女医・緒川たまきがトイレに行けない少年患者に柔和な笑顔を向け、その善人性を垣間見せたのが第三回。これでは早過ぎるのだ――。その他の出演者では、凛としたフライトナースを演じた比嘉愛未が今クール最大の収穫だ。
 一方、医師役の竹野内豊が三七歳、ナース役菅野美穂が三〇歳と『Tomorrow』は安心して見ていられる配役。しかし『医龍2』の基本設定を市民病院に置き換えたような脚本に『コード・ブルー』の完成度の高さはない。八年前の医療ミスがきっかけで現場から離れていた竹野内が第二回で早々と医師に復帰するのは安直。そもそも復帰できるのは医師免許の更新制度がないから。これでいいのか日本は?(竹野内は演技自体は悪くない)。何かというと緒川医師に噛みつく菅野も疑問である。「プロとしてのクールさ」と「人間としての温かみ」がほどよく調和して、よい職業人たり得ると思うのだが、このドラマの菅野は温かみ、あるいは熱さに偏り過ぎて、いささか危なっかしい。時には本音を押し殺すことも患者に安心感を与えるナースの資質であるはずだ。何でもかんでも熱けりゃいいってもんじゃない。その点、『コード・ブルー』の若手医師やナースは建前も本音も打算もある人間として緻密に描き込まれ、ドラマに奥行きを与えていた。なかでも不治の病に冒された恋人に「自分が大切」と本音をぶつけて別れる比嘉のエピソードはキレイ事ではない生々しい人間を描いて、深い余韻を残した。
『ゴンゾウ 伝説の刑事』は所轄の備品係に身をやつす元捜査一課のエースが主人公。内野聖陽演じるこの人物が刑事に復帰する展開は『Tomorrow』同様、説得力に欠けるものの、一つの事件を毎回異なる角度から追っていく趣向は面白い(脚本・古沢良太)。地味な出演陣のなかでは筒井道隆が主人公の上司役を<底意地の悪いのび太>風に演じて存在感を際立たせていた。
 コメディの『ヤスコとケンジ』『正義の味方』はいずれも<妹受難ドラマ>。『ヤスケン』主演・松岡昌宏の静9・動1の演技パターンは『マンハッタンラブストーリー』の延長線上で新味に乏しく、元ヤンキーの少女マンガ家という設定も不発気味。同時間帯の前番組『ごくせん』さながら、クライマックスに毎回乱闘シーンを用意する趣向もさすがに飽きた。
 そこへいくと、<一日一悪>をモットーとする姉(仕事のできる官僚役。「こっちは国のために命すり減らして働いてる。理屈はいいからまず働け」と妹に無茶苦茶な命令をするのがおかしい)と、彼女に振り回される妹を主人公にした『正義の味方』は他愛ないシチュエーションコメディだが、安定している。山田優は『ハケンの品格』の篠原涼子と『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の佐藤江梨子を合体させたようなキャラを無機質に演じて意外と柄に合っており、その妹役の志田未来の演技の達者さには今更ながら舌を巻いた。
 岡田将生、北乃きい、吉高由里子、谷村美月、冨浦智嗣ら若手の注目株が一堂に会した『太陽と海の教室』は配役の豪華さだけなら2008年屈指の学園ドラマ。とはいえ、坂元裕二脚本ドラマと僕は相性が悪く、完走した連ドラがほとんどないので(『東京ラブストーリー』ですら中盤嫌気がさして何話か見ていない)、あまり期待せずに見たのだが、案の定のドラマだった。物語は行き当たりばったりで、織田裕二の暑苦しい説教がただ垂れ流されるだけ。若々しい青春の匂いどころか、加齢臭がプンプン漂う学園ドラマだった。それでは各賞の中間発表。
作品賞 コード・ブルー
主演男優賞 竹野内豊(Tomorrow)
主演女優賞 志田未来(正義の味方)
助演男優賞 筒井道隆(ゴンゾウ)
助演女優賞 比嘉愛未(コード・ブルー)
 映画では『歩いても歩いても』がよかった。静かで何も起こらない作品だが、時折、死者(海で子供を助けて水死した老夫婦の長男や、病死した夏川結衣の夫)のことが話題にのぼると、映画はやにわに緊張感を孕む。そして家族たちは飽くことなく、死者の話をして彼らを追想するのだ。まるでそうしないと、死者たちが本当に死んでしまうかのように。悼むとは繰り返し死者を思い出すことなのだということを教えてくれる映画である。
posted by ムーンライター at 10:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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